フェスで見かけたあんな人やこんな人、有名無名問わず最高に楽しんでいる(=フェスってる)人たちにインタビューする「フェスな人」。今回は、今週末に開催される「ITAMI GREENJAM」の主催者・大原智さんにお話を伺いました。フェスを開催することになったきっかけから、街にGREENJAMビルまで作ってしまったという大原さんの地元伊丹への熱い思いとは?
ITAMI GREENJAM主催 大原智さん
-「ITAMI GREENJAM」は、どういうきっかけで始まったのですか?
実は、きっかけと言えるものは特にないんです(笑)。「ITAMI GREENJAM」は兵庫県の伊丹市で開催しているのですが、会場の昆陽池公園は僕たち伊丹市民にとって”憩いの場”として浸透しています。それこそ、幼稚園や小学校の遠足では必ず訪れる場所で、毎朝ご年配の方々がランニングや太極拳をしている、そんな場所です。
-伊丹にとって、なくてはならない場所なんですね。
そうなんです。そんな昆陽池公園で「野外フェスが出来たら…」とか「音楽フェスがあったら…」というのは、地元の若者がよく考える妄想だったんです。でも昆陽池公園は市の持ち物だし、どうやった借りられるのか、開催費用はどうするのか、あまりにも実現への壁が高くて、手の付け方が分からないから、誰も実際にやろうとは思わなかったんです。
-そこで大原さんが動き出したというわけですね。
そもそも開催すること前提で動き出さないと始まらないんじゃないかと思って、「昆陽池公園で野外フェスやりたいよね」ってことに反応してくれる周りの仲間に声をかけて、「どうやったら実現できるか会議」みたいなものを2014年3月頃に始めたんです。
-どんな方が集まってきたのですか?
普段から付き合いのあったダンススクール会社代表、飲食店オーナー、イラストレーター、文化施設職員、OLなど多種多様な地元の若者が集まってくれました。だから「きっかけがなかったので、きっかけを無理矢理作った」と言うのが正しいですね(笑)。
-そんな「ITAMI GREENJAM」ですが、今年も開催が迫っていますが、どんなフェスなのか改めて教えてもらえますか?
「ITAMI GREENJAM」の特徴は、音楽フェスにちょうどいい感じに市民イベントがふりかかってるところかなと思います。音楽フェスってどうしても一般的には、「若者」とか「パーティー」みたいなキーワードがあって、例えば市民の色々な世代の方々で作り出している「市民祭り」や「自治会祭り」みたいなものとは、ある種対極にあると考えているのですが、「ITAMI GREENJAM」はその両方の要素が良いバランスで組み込まれていると感じています。
-ラインナップを見てみると有名アーティストから地元の方々まで並んでいます。
今年だと、ステージではスチャダラパー、竹原ピストル、MOROHAなど、”THEフェス”みたいなステージが繰り広げられていると思えば、そのステージのバックヤードでは、地元のお母さんたちが炊き出しをやっていたり。他にも、FM802さんによるフェストークセッションという、フェスでよくみかける光景があると思えば、その同じステージの異なる時間帯では、市民ママさん団体がゴスペルLIVEをしていたりみたいな。
-どういった意図で出演者を決めているのですか?
フェス的要素と市民祭り的要素のバランスっていうのは強く意識して組み立てています。個人的な考え方ですけど、フェスには”個”とか”自由”っていう言葉がイメージとしてあって、市民祭りには”団体”とか”皆で”みたいなイメージがあるんですが、前者は、解釈を間違えると暴走にもなるし、後者は一歩間違えると窮屈さがある。でも、その両方の要素共必要だと考えているので、ひとつの物事を判断するときも、「ここは”個”の判断でいった方が良いんじゃないか」とか「ここは”皆で”ってう要素で判断した方が良いんじゃないか」とか結構悩むことはありますね。
-アーティストのブッキングについてはどうですか?
アーティストのブッキングは完全に僕の”個”で決めてます。「ITAMI GREENJAM」って、家族連れの来場者が一番多かったり、市民感の強いフェスなんですけど、その割に毎年出演者濃いと言われることが多いのですが、それは完全に僕の”個”というか、癖によるものです(笑)。
-“個”ではない部分で判断していることはありますか?
2年目から設けたキッズエリアは、地元の現役子育てママさんたちが一から企画制作をしてくださっています。それこそ旦那さんとかまで巻き込んで、皆で取り掛かってくださったりして、本当に感謝しかありません。地元を中心に色々な方に力を借りて開催している無料フェスなので、やっぱり”皆で”っていう要素は絶対ないといけないと思いますし、このイベントにはそれが必要です。でも、全てがそうなるとフェス特有の”個”とか”自由”という要素が消えてしまうと思うので、「ここはワガママを突き通したほうが面白くなるはずだ」っていう部分はしっかり判断して頑固に”個”を貫き通すという、この両極端な要素のバランスを考えながら制作しています。
-会場装飾の多くも自分たちで手がけられているそうですね。
会場内の装飾はもちろん、ステージ音響、デザイン、映像、出店者管理などを自分たち、それもほとんどが地元の人間が行っています。これって意外にすごいことなんじゃないかと思ってるんですが、この規模のイベントで自分たちでやるのはまだしも、そのほとんどが実際に”伊丹の人間”っていうのは、全国数あるフェスの中でも決して多くはないと思います。
-ただその場所で開催するという意味でのローカルではなくて、本当の意味で地元の人たちが作るフェスだと。
その通りです。土台はあくまで「フェス」であることにはこだわっているのですが、そこにどれだけ市民の方々を巻き込めるかっていう部分は凄い意識していますし、最終的には「野外音楽フェス」なんだけど地元に根付いた風物詩みたいな「祭り」になったらいいなと思っています。そういう意味でも、やっぱり無料で開催という部分は意地でも守りたいんです。地元の人たちで作る風物詩的祭りが有料っていうのはちょっとイメージできないですから。
-これまでフェスをやってきてよかったことを教えてください。
何よりも地元の仲間たちと「ITAMI GREENJAM」っていうものを作り上げれたこと。そして「ITAMI GREENJAM」を通して、僕を含め、どんどんその仲間たちの活躍の場や、交友関係が広がっていることですね。メンバーの中には、中学からの同級生もいるんですが、16歳のときから、今(34歳)まで平均しても週4回は会ってなんやかんやしてるんですよ。18年間、週4日で会い続けている連れなんてなかなかいないと思います(笑)。
-逆に大変だったことは?
大変だったのは選ぶのが難しいですね。基本的に常に大変なので(笑)。ゼロからのスタートだったのでそもそも開催するまでが大変だったのと、3年目を迎えた去年は台風の影響で中止。リベンジと意気込んだ今年の2DAYS開催決定とその準備、もう数えきれない程の壁と対峙して、もう自分の中の糸が切れそうになる瞬間と、「いやいや!!負けるわけには!!」ってまた立ち直ったりの繰り返しです。
-フェス主催者の方によく話を聞かせてもらいますが、長く続いているフェスは苦労と成功の繰り返しだと感じます
そう思います。この経験を受けて、皆さんにもっと応援して頂けるよう働きかけるためにも、一番手間がかかる細かな準備制作部分に関しては、正直ほとんど僕のワンマンで進めてしまっているっていうのが現状なので、もっと運営体制を強化して、安定した制作や運営を出来るようにするっていうのが今の課題だと思っています。