アジアと日本の音楽シーンを繋ぐキーマン・沖縄Music Lane主催・野田隆司氏インタビュー

フェス原体験は吉田拓郎@つま恋

-少し話は逸れますが、野田さんにとって、フェスの原体験的なものはあるのでしょうか?

フェスという形ではないかもしれませんが、自分にとっての原体験は 1985年に吉田拓郎さんがつま恋で開催したオールナイトコンサートでした。当時は、複数のアーティストが出るという、今でいうフェス的なものはそんなになかったと思います。それが大学2年の時で、友達と掛川の駅で待ち合わせて、知り合った地元の人と飲んだあとにゲートに行ってみたら1番前で見ていました。でも、待ち時間も長く炎天下の中、何の準備もせずに小さいリュックサック1つで行って、すごい大変だった記憶があります(笑)。

-その当時から沖縄のフェスや野外イベントには参加されてましたか?

地元沖縄の「ピースフルラブ・ロックフェスティバル」には行ったりはしてました。いわゆるフェスとは少し違っていて、地元の人が飲んで騒いでっていう地元のお祭りみたいな感じでしたね。当時は日本全体でもそうですし、特に沖縄は現在のフェスのような催し自体があまりなかったですね。

-では、何かモデルとなるフェスがあって、それを自分でやってみようとかではなく、アサイラムは劇場の中の色々な工夫の中から生まれてきたんですね。

そうですね。タテタカコさんに最初から参加してもらってるのですが、彼女のマネージャーもとても顔が広い方で、アサイラムは、お互い1年間どれだけ色んな人と知り、知り合えたかみたいなのを、持ち寄って発表するみたいな場でもありました。色んな人の繋がりを大事にして広げていくことで、イベントとして、フェスとして進化していった感じですね。

-“人との繋がりを大事にする集まり”という要素はMusic Laneにも連なっている気がします。

そうですね。今では海外のデリゲーツがたくさん参加してくれるようになりなりましたが、そういう繋がりっていうのはすごく大事だと思ってます。あとアサイラムに関して言うと、東日本大震災の翌年から福島でもアサイラムが始まりました。アサイラムという名前は避難所というような意味もあるんですけど、元々は青森県の弘前にあるバーの名前をお借りしています。地元青森で音楽シーンを盛り上げてる斎藤さんという方が弘前で有名なJOYPOPSというレコード屋を長年やられていて、その方が奈良美智さんともお友達だったり、タテタカコさんとかとも繋がりがあって、そこから色々と広がっていきました。

-そういった関係性が福島でのアサイラムに繋がったんですね。

そうですね。東北で震災があって、音楽といった文化が、日々の自分たちの生活の拠り所になるようなものをやっていきたいというのがアサイラムの趣旨でした。アサイラムとして、こういうイベントをやりたいんだということをタテタカコさんたちが話をしてくれて、福島でもやることになったんです。

アジアと沖縄の音楽ネットワークを作る

-アサイラムの中で、フェス主催者や音楽関係者が集まるカンファレンスを入れ込んだ形になっていったのはいつ頃なのでしょうか?

きっかけとなったのは、2014年あたりに沖縄の音楽を海外に紹介したり、アジアの音楽ネットワークを作るというようなことをテーマに、沖縄のアーツカウンシルから補助金をいただいたことでした。

-具体的にはどのような活動をされたのでしょうか。

元々沖縄の音楽はワールドミュージック的な要素が強いので、海外に紹介するとしたら沖縄の民謡とポップス、ロックをミックスしたような喜納昌吉さんだったり、りんけんバンドだったり、そういった音楽やアーティストを海外に紹介したいということで、ヨーロッパの「WOMEX」というワールドミュージック・エキスポに出展したんです。毎年沖縄のバンドを1組連れて行って、ショーケースに出させてもらうという形でした。

-その活動の中で、アジアの音楽関係者やフェス主催者との繋がりが生まれていったんですね。

そうですね。ただ、アジアの音楽ネットワークを作るといっても、最初は何をどう始めていいのか分からなかったので、アーツカウンシルの方と色々相談しながら進めていきました。 その時は「野田さんが友達を作ってくればいいんだよ」みたいなことを、担当者の方に言われて、それで、色々なところを回りながら、関係性を広げていった感じですね。最初に行ったのは韓国の蔚山(ウルサン)で開催されていた「APaMM」(エイパム)と呼ばれているカンファレンスで、割とクローズドのカンファレンスだったんですけど、何も知らないまま参加してましたね。

-元々繋がりがあったわけではなく、飛び込みでネットワークを作っていかれたんですね。

あとはやっぱり「WOMEX」が大きくて、その当時から韓国とかはすごく大きなスタンドを出していました。その時出ていたアジアのスタンドでいうと、沖縄と韓国と、あと日本の北関東の尺八屋さんとかでした。

-そこで繋がった人とは、その場で何か一緒に動こうというような話にもなったりしたのですか?

そこで知り合った人とその場で何かが始まるということはなかったですが、2年目に行ったらまた会って「久しぶり!」というような感じで、徐々に関係性を積み上げていきました。当時、北京の「Strawberry Music Festival」と同じ時期に「Sound of the Xity」というショーケースがあって、 そのカンファレンスに、WOMEXのオーガナイザーの人と一緒に登壇したりもしました。その時に、モンゴルの「PLAYTIME FESTIVAL」というフェスの主催者ともそこで初めて会って「その年の7月にフェスやるよ」っていうから見に行ったんですよね。そういうふうに関係性を1人ずつ増やしていきました。

-当時からそういった動きをしているのは日本ではとても稀有な存在だったと思います。

その時の活動は補助金もらっている仕事だったので、報告会みたいなことが必要だったんです。最初は音楽だけじゃなくて、色んな文化系の方を呼んで パネルディスカッションみたいなことをやっていたんですね。でも、それだとちょっと面白くないし、自分も海外のショーケースを見に行くようになってたので、2016年からデリゲーツという形で、海外から5〜6人の関係者を呼ぶようになりました。それに加えて、地元の沖縄のバンドをピックアップして、ショーケースライブと組み合わせて2016年に「Trans Asia Music Meeting」という名前でスタートしたんです。先ほどのモンゴルの「PLAYTIME FESTIVAL」の主催者や、韓国・中国・台湾のフェスの主催者の方たちにも来てもらいました。

-それ以降「Trans Asia Music Meeting」も大きくなっていくわけですよね。

2017年からは「Trans Asia Music Meeting」をアサイラムとくっつけて、アサイラムをショーケースに見立てた形でやるようになりました。「Trans Asia Music Meeting」のことは当時説明しても中々理解が得られないこともありましたが、一応形としては、カンファレンスやって、1on1ミーティングをやって、ショーケースをアサイラムでやって、ライブを見てもらって、 何かしらの繋がりを作ってもらうというものでした。基本的な形は2017年~2019年にかけてできていった感じですね。

コロナ禍で加速したアジアとの繋がり

-その後、コロナ禍に入ったわけですが、「Trans Asia Music Meeting」は新しく立ち上げられた「Music Lane」と連動するようになりましたが、どのような流れがあったのですか?

2020年の「Trans Asia Music Meeting」は2月の最後の週末だったんですよね。まさにもうパンデミックが始まっていて、翌週にはもう学校が全部休みになるみたいなタイミングで、ギリギリ開催できて、なんとか良い形で終われました。これが今後繋がっていくかなと思っていたところで、すべてがストップすることになりました。それでも、その間に何かやらないといけないということで、コロナ禍でどういう風に音楽と寄り添って生きていくかみたいなインタビューを受けたり、逆にこちらでインタビューをしてブログで公開したりしていました。同時に、オンラインでカンファレンスやアーティストと1on1のミーティングが行われて、ショーケースライブはYouTubeで動画で見たりというように、新しい形が生まれました。

そんな中で、Music Laneの話でいうと、2020年4月から沖縄のミュージックタウン音市場という施設の指定管理を会社として受けることになり、「Trans Asia Music Meeting」もそこでやろうと思っていました。そこで、2022年に文化庁の補助金をいただいて、「Music Lane Festival」という名前でオンラインをベースにしたサーキットフェスのようなものを開催しました。

-コロナ禍で生まれた新しい形を自分たちでも実践しようということですね。

まさにそうです。2022年はそういう形で「Music Lane Festival」をスタートさせて、2023年はオフラインでもイベントできるような状況になってきたので、公募をかけてショーケースを行いました。実際に沖縄でショーケースをやって、どれぐらいの海外から応募があるかっていうのは全然読めなかったんですけど、実際にはトータル50組ぐらいのアーティストからの応募が来ました。その年の「Trans Asia Music Meeting」のデリゲーツは海外から20人ぐらい来ていただきました。

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