アジアと日本の音楽シーンを繋ぐキーマン・沖縄Music Lane主催・野田隆司氏インタビュー

Music Lane Festivalとショーケースの今

-日本にはショーケースフェスという文化が、意外と根差してないようにも感じていて、たとえば”デリゲーツ”という言葉を業界の人に言っても伝わらないことも実際にあったりもします。改めて、ショーケースとしての「Mucic Lane」がどんなフェスなのかというのを野田さんからお伺いしたいです。

「Music Lane」は形としてはサーキット型のフェスなんですけど、ショーケースとして海外からのデリゲーツとのマッチングだったり、ネットワーキングというものがすごく大切な要素になっています。ショーケースというのは、基本的にはアーティストに対して旅費やギャラは基本的に出さない形になっています。

-アーティストは公募という形で募集し、アーティスト側も自分たちにとっての宣伝の場所としてフェスを使うということですね。

アーティストにとってショーケースは投資という側面が大きいと思うんですけど、自腹で投資をして売り込むというのが、日本のアーティストにとっては文化としてあんまりないと思います。それに対して、海外のバンドはそこに対してすごく積極的なんですよね。アジアの色々なところでショーケースが開催されていますが、なんとか自分たちでお金を集めて、ショーケースに出て演奏して、そこでいろんな関係性を作って自分の音楽を広げていくというカルチャーがあります。 そういうものをうまく日本にも定着させられたらいいのかなという思いも、この「Music Lane」を主催しているひとつの要素です。

-アーティストにとっては大きなチャンスの場としてショーケースが機能している一方で、主催側としては課題もあるとお聞きしましたが、そのあたりはいかがですか?

やはりショーケース自体は、いわゆるフェスでいうヘッドライナー、ビッグなアーティストが出るわけではないですし、お金の部分でのバランスは正直すごく悪いです。ショーケース自体によって収入を得るというのはかなり厳しい。ただ、続けていく意味は大きいと思っているので、なんとか続けていきたいという思いでやっています。何かしら継続的にやっていけるようなマネタイズの方法がないか色々と模索しています。今回もビジネスパスを売るなどの新しい取り組みをスタートさせました。

-アジアだけではなく、海外には色々なショーケースがあったりする一方で、日本にはショーケースフェスが根付いてないというのは何か違いがあったりするのでしょうか?

よく言われるのは、やっぱり日本はマーケットが大きい。日本の国内だけでどうにかなってきたっていうのが、ひとつの要因としてあるのかもしれません。今はサブスクリプションサービスで音楽を聴くのがメインになっていて、 そのプラットフォームに音源を上げたら世界の隅々まで同時に聞けるような状況がある中で、日本のマーケットだけ見ていてももったいないなと思います。どこで火がつくかわからないし、シティポップの例を見てもわかるように、どこでどう聴かれるかは分からない。だからこそ、そういう可能性を広げていくという意味でも、ショーケースっていうのはありだと思います。

-野田さんは世界中のショーケースをたくさん見てらっしゃると思うんですけど、今、世界的なショーケースフェスの流れだったり、トレンドのようなものはあったりしますか?

あまり俯瞰的な見方ができていないとは思うのですが、アジアだけ見ても、2017年にスタートした台湾の「LUCfest貴人散歩音樂節」は今年からなくなりました。あとは韓国で最も有名な「ZANDARI FESTA」も今は基本的に公募ではなく、ブッキングになっています。インドネシアの「AXEAN Festival」も一部公募をやってるんですけど、基本ブッキングに近い感じなんですよね。そういったように本当に純粋に公募で出れるショーケースっていうのは、周りを見ると意外と減ってきてるなという感じがします。お金の問題だったり、チケットセールスでバランスが取りづらいっていうのは大きいのかなと思いますね。

-大きいところではアメリカの「SXSW」は公募の部分もありつつ、いわゆるお客さんを寄せる集める大きいステージもあったりしますよね。

その方法もありますね。国内でいうと「シンクロニシティ」のように、既に成立してるサーキット型のフェスに、上手くデリゲーツとかを巻き込んで、 ショーケース的な要素を入れていくのが良いやり方なんじゃないかなと個人的には思っています。

2025年のMusic Laneはさらに進化する

-2025年の「Music Lane」は色々な部分が進化すると聞いてますが、どのようなことを目論まれているのでしょうか?

やはり一般の音楽ファンの方に来ていただきたいというのが1番大きいですね。11月に渋谷で開催されていた「BiKN」をSNSのタイムラインで見ていたのですが、オーディエンスが楽しんでる様子がすごい伝わってきたし、アジアの新しいアーティストは今、求められてるんだなと。 そういう流れがあるので、アジアのアーティストを紹介する場所として、しっかり音楽ファンの方に「Music Lane」という存在をうまく届けられるようにしていきたいと思っています。あとお金の部分でもバランスを取っていかないといけないので、先ほども言ったビジネスパスを売ったりとか、カンファレンスも以前より厚くして、大きな柱にしようとしています。

-カンファレンスは例年より枠数もかなり増えています。

今年のデリゲーツだと、Clockenflap(香港)、WANDERLAND(フィリピン)、PLAYTIME FESTIVAL(モンゴル)、Vagabond Fest.(台湾)KILOGLOW(中国)、釜山ロックフェス(韓国)をはじめ、アジア各国からフェスの関係者が来る予定です。こういったフェスの主催者が一堂に集めることは日本では珍しいので、出演アーティストは良いきっかけを作ってもらえたらと思います。

-Music Laneから海外進出に成功したアーティストの事例もありますね。

デリゲーツの好みもあるので一概には言えないですが、例えば、去年出演したJohnnivanはライブを見た韓国のデリゲーツに刺さったみたいで、そこから韓国の「DMZ Peace Train Music Festival」に呼ばれていました。 沖縄で言うとHOMEやHarikuyamakuはモンゴルの「PLAYTIME」やインドネシアの「AXEAN Festival」にも出ていました。あとは、さらさとかも10月にマニラのショーケースに出ていましたね。

-色々と事例があるなかで、ショーケースのような場で、アーティストにはどんなことが求められるのでしょうか?

やっぱり大事なのはコミュニケーション。イタリアとモンゴル出身の男女混合デュオ straw man.&celineとかは、モンゴルの「PLAYTIME」、チェコの「CZECH MUSIC CROSSROAD」にも出てたし、韓国の「Busking WorldCup」にも出ていました。彼らの様子を見ていると、やっぱりコミュニケーションの取り方が上手くて自分たちの音楽をどうやって広げていきたいのかが明確。会った人にちゃんと自分の音楽を伝えて、 ショーケースでライブを見て、理解してもらって広げていくっていうのは、本当に細かい作業だけど、すごい大事なことだと思いますね。

-音楽自体はもちろん、コミュニケーションを通して、自分たちのビジョンをいかに伝えるかということも鍵になってくるんですね。

英語が苦手というアーティストもいると思うんですけど、こういう場だと一緒にお酒を飲めたり、普通にカジュアルに話せる機会もすごく多いので、そういうところから話をしてみてほしいですね、ショーケースを見てもらって、感想を聞いてみたいな。そういう細かいコミュニケーションから始めていくのがいいのかなと思います。あとは、出演アーティスト同士で繋がってもらうのも良いと思っています。海外のアーティストと繋がると、海外ツアーの際に対バンのお願いとかもしやすいだろうし、実際にそうやってる人もいます。アーティスト同士が繋がる場としてもうまく機能していけたらいいのかなと思いますね。

-「Music Lane」の今後の展望や、野田さんの中で思い描かれていることはありますか?

とにかく続けていくことが1番なのかなと。内部的な事情を言えば、バトンタッチしていける人を探さないといけない。沖縄でなくても、東京でも大阪でも、こういうことを引き継いでもらえる人がいるといいですね。

-野田さんという”人”が培ってきたネットワークなので、それを引き継ぐのはなかなか大変な面もあるかと思います。

やっぱりできるだけ足繁く通うことが大事なのかなと思っています。顔を合わせていれば自然に関係性はできていきますしね。この間のモンゴルの「PLAYTIME」では、日本からもたくさんの方が来ていました。アーティスト関係者はもちろん、Festival Lifeのようなメディアや、ONE MUSIC CAMPの野村さんのような日本のフェスの主催者も来ていたり、少しずつ新しい流れができてきてはいるのかなと。まずは1月の沖縄に足を運んでもらって、そういった流れが続いていくような場として、「Music Lane」が機能していけば嬉しいですね。


Text:福井郁花
Interview:津田昌太朗

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