Festival Lifeでは、2021年3〜4月に関西国際大学・永井純一准教授と共同で、「地域とフェスについての関係」についての調査をフェス主催者に対して実施しました。本コラムでは複数回にわたり、調査のデータを参考にしながら、これからのフェスと地域の関係性について深掘りしてもらいます。(Photo:hoshioto)
永井純一教授コメント
関西国際大学の永井純一ともうします。フェスティバルライフでは過去にもコラムやポッドキャストなどでお世話になっています。今回は「フェスが地域社会からどのような支援を受けているのか」を深掘りしていきます。
フェスが地域社会から受ける支援
前回は、フェスが地域社会のどんなところとつながっているのかについて考えてみました。では、フェスはそうした機関や団体から実際に、どんなサポートを受けているのでしょうか。今回はフェスが地域社会から受ける支援についてみていきましょう。
支援内容については,経済的支援とそれ以外のもの(社会的,物理的,象徴的な資源に関するもの)に区別し、それぞれ公的機関によるものと民間によるものにまとめました。全体的に行政よりも民間からの支援が高い数値となっており、「民間主導」の様子がうかがえます。
経済的な支援については「企業からの協賛金」(63.2%)、「市民・個人・商店・個人団体からの寄付や協賛金」(38.6%)と上位2つが民間による支援でした。なお,コロナ以前(2019年以前)の開催において何らかの公的な助成金や補助金を受けたことがあるフェスはのべ38.6%で,最も多いのは市区町村のもの(28.1%)でした。「思っていたより多い」という印象を受ける人もいるでしょう。ただし名目や金額といった内実については今回の調査では明らかにできていません。
関係者への聞き取り調査では「シティプロモーション」「交流・ふれあい」「交通費援助」といった地域振興に関するキーワードが浮上しましたが、他方で先行研究をふまえるならば、文化・芸術振興に関するものは少ないと考えられます。あくまでも現段階では仮説ですが、音楽そのものよりは、地域の活性化に対する期待の方が大きく、それに対する行政支援という図式が浮かび上がります。この点については今後の課題として引き続き調査を続けたいと思います。
その他には会場にかかる費用に関する援助が公的機関、民間ともに一定の割合であることがわかります。
それ以外の支援では「ボランティアや実行委員など人的支援」については、民間団体が48.2%,行政をはじめとする公的な機関が33.3%で民間の方が多くなっています。現在、多くのフェスではボランティアスタッフが活躍しており、人集めに苦戦することも少なくないのですが、さまざまなルートから人が集まって、皆でひとつのフェスを作り上げている様子がうかがえます。
これ以外には民間では「物やサービスを無償で提供してもらった」「アーティストまたはクリエイターの技術支援」といったサービスやスキルに関するもの,公的機関では「警備や安全確保の為,指導または支援」「イベントに対する評価やアドバイス」といった指導やアドバイスに関するものが高い数値となっています。民間はアイデアや技術、公的機関は実務や評価といった役割分担がなんとなく見えてきます。
ここに紹介したのはほんの一例ですが、お客さんとしてフェスに行く以外にも、地域社会の一員としてフェスに参加する方法はあります。たとえばボランティアスタッフはホームページなどで募集していることも多いので、たまにはスタッフとしてフェスに参加してみるといいかもしれません。作り手側に立って自分のまちのフェスを盛り上げることで、今までとは違った楽しみができるかもしれませんね。
次回はフェスの地域貢献についてみていきたいと思います。
著者:永井純一
関西国際大学現代社会学部准教授。博士(社会学)。国内外のフェスをめぐり、社会との関係を研究する。著書に『ロックフェスの社会学——個人化社会における祝祭をめぐって』(2016、ミネルヴァ書房)、『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(共著、2019、花伝社)、『音楽化社会の現在』(共著、2019、新曜社)、『コロナ禍のライブをめぐる調査レポート[聴衆・観客編]』(共著、2021、日本ポピュラー音楽学会)など。
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