【永井純一コラム#1】フェスと地域社会の関係 | 音楽フェスと密接な関係にあるのは都道府県か市区町村か

itami greenjam

Festival Lifeでは、2021年3〜4月に関西国際大学・永井純一准教授と共同で、「地域とフェスについての関係」についての調査をフェス主催者に対して実施しました。本コラムでは複数回にわたり、調査のデータを参考にしながら、これからのフェスと地域の関係性について深掘りしてもらいます。(Photo:ITAMI GREENJAM)

永井純一教授コメント

関西国際大学の永井純一ともうします。フェスティバルライフでは過去にもコラムやポッドキャストなどでお世話になっています。今回から5回ほどに分けて、調査によって得られたデータをもとにフェスと地域社会の関係について考えてみたいと思います。よろしくお願いします。

フェスは全国47都道府県で開催されている

2021年はフェスにとって厳しい年となりました。とりわけ、8月から9月にかけてテレビや新聞などで連日取り上げられ、社会的に大きな注目を集めたことは記憶に新しいです。 緊急事態宣言下での開催については厳しい声が上がった一方で、こうした報道を通じて、フェスが行政や地域社会としっかりと協力体制を整えていることを知った人も多いでしょう。人々の関心が高まっている今こそ、 フェスと社会の関係について考えるよいきっかけといえるのではないでしょうか。

さしあたりコロナ以前の全国のフェスの開催状況を振り返っておきましょう。表1は、2019年にフェスティバルライフに掲載されたフェス(426件)を都道府県ごとに集計したもの、図1はその情報を地図に落とし込んだマップグラフです。いくつかの県では数値が0になっていますが、その後のフェスティバルライフとの共同のリサーチでいずれの県でもフェスが開催されたことが確認できました。つまりコロナ禍以前の2019年には全国47都道府県で何らかの音楽フェスが開催されており、その数は400件以上になります。

図1

図1で地図の色が濃くなっているところはフェスが多く、淡いところは少ないことを示しています。これを見ると東京や大阪を中心に都市部や人口が多いところでフェスが多く開催されており、とくに首都圏の色が濃くなっていることがわかります。要約すると、フェスは日本全国で開催されているのですが、特に盛り上がりをみせているのは東京を中心とした首都圏あるいは大都市周辺だといえるでしょう。地方は相対的に少なく、フェスの数を巡っては地域間格差があるのかもしれません。もちろん、地方にも存在感のあるフェスは存在しますし、人々の思い入れが強く支持されているものも少なくありません。

もっとも連携体制が整っているのは市区町村

では、 これらのフェスは地域社会にどのように根付いているのでしょうか。フェスティバルライフの協力を得ておこなった、フェスの主催者を対象としたアンケート調査の結果をもとにひもといていきたいと思います。このアンケートは主にフェスを開催するにあたって主催者が地域の人々とどのように連携しているかをたずねたものであり、114件のフェスに協力いただきました。詳細については以下のとおりです(表2〜3)。

図2は主催者の名義がどのようになっているかをまとめたものです。多いものから順に実行委員会が65.8%、個人と一般企業が11.4%、プロモーター・制作会社が9.6%であり、行政・自治体は2件、その他2件でした。ほとんどのフェスが民間主導でおこなわれていることがわかります。ただし、これらの多くは民間の事業として“勝手に”開催しているわけではありません。

図2.主催者の名義

下の図3はフェスと行政機関の連携状況についてまとめたものです(複数回答可)。規模や形態にもよりますが、多くのフェスは行政との連携や連絡をとりながらおこなわれていることがわかります。もっとも関係性が強いのは市区町村であり54.4%のフェスが「しっかり連携している」と回答し、「事務連絡を行う程度」を合わせると8割以上のフェスが連絡をとっていることがわかります。このことは、フェスが根差す「地域」をどのあたりに設定するか、フェスの「地元」がどこかを知るうえで手がかりとなりそうです。なお「市区町村」「都道府県」「国や省庁」のいずれとも「連携していない」と回答したフェスは14.0%にとどまりました。

図3.行政との連携・連絡状況

昨年愛知県で開催された「NAMIMONOGATARI」をめぐる報道では市長や県知事が登場したことに驚いた人も多いと思います。しかし、このデータをみると、コロナ以前からフェスと行政の連絡はおこなわれていたことがわかります。データからは、規模が大きなフェスほど連携や連絡をとっていることも確認できました。当たり前といえば当たり前ですが、大人数が集まるフェスを開催するには地域社会の理解が必要だといえます。

あらためて調べてみると、コロナ以前には日本全国でかなりの数のフェスが行われたことがわかります。フェスを一過性のブームだと見る向きもありましたが、規模もコンセプトも違う個性的なフェスの数々が全国に根付いて、ひとつのカルチャーを形成していたといえるのではないでしょうか。

次回は、調査データをもとに「フェスと地域社会の連携状況」を深掘りしていきます。

著者:永井純一
関西国際大学現代社会学部准教授。博士(社会学)。国内外のフェスをめぐり、社会との関係を研究する。著書に『ロックフェスの社会学——個人化社会における祝祭をめぐって』(2016、ミネルヴァ書房)、『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(共著、2019、花伝社)、『音楽化社会の現在』(共著、2019、新曜社)、『コロナ禍のライブをめぐる調査レポート[聴衆・観客編]』(共著、2021、日本ポピュラー音楽学会)など。

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