HITC DAY1レポ
会場内には88↑とDouble HAPPINESSというふたつのステージがあり交互にパフォーマンスが行われるのだが、基本的には時間が重ならないようにタイムテーブルが組まれているので、欲張れば両ステージのすべてのライブを楽しむことができる。
初日のトップバッターは、88rising所属のシンガーソングライターStephanie Poetri(ステファニ・ポエトリー)。母親は80年〜90年代に多くのヒット曲を生んだインドネシアの女性グループ3DivaのメンバーTiti DJ。アメリカ人の父親との間にインドネシアで生まれたポップ・シンガーのステファニは、まさに今回のHead In The Clouds Jakartaを象徴するようなアクト。続いてバリ島を拠点に活動するバンドMANJA、タイ人のフィメール・ラッパーMILLI、中国のオーディション番組からデビューした男性アイドルグループR1SE(ライズ)のメンバーZhang Yanqi(チャン・イェンチー)と、スタートから音楽性も出身国もさまざま。
その後、88↑ステージには今年サマーソニック2022にも出演し満員の観客を魅了した、韓国のラッパーでプロデューサーのZICOが登場。ジャカルタのオーディエンスの特性として身体をしっかり動かして踊ることは少ないのだが、この時はZICOの呼びかけに応えて多くの手が上がっていたのが印象的だった。
続く、韓国、タイ、中国、台湾のメンバーで構成されたガールズグループ(G)I-DLEのオープニングは、10月にリリースし世界的にヒット中の『Nxde』。“ヌード”という単語に向けられるわいせつな視線を風刺し、女性の外見への偏見や身勝手な性的消費を軽やかに指摘するようなクールなナンバーで、カムバックの際はメンバー全員がマリリン・モンローをオマージュした明るい髪色で登場し、作品のメッセージを強化した。「ここにいらっしゃる皆さん、いやらしい作品を期待されたなら失礼します」と皮肉った歌詞が痛快で、一曲目から一貫して彼女たちらしいメッセージ性を感じるステージとなり、間違いなくこの日のハイライトのひとつだった。
途中小雨が降る時間帯もあったが、エントランス付近ではレインコートを無料で配っており、服や荷物が濡れることはなくライブも見やすい。陽が落ちて、今年88risingに加わったベトナムと中国をルーツに持つアメリカ人ラッパーのSpence Lee(スペンス・リー)、スペシャルゲストとしてラインナップされたシカゴ出身のDJ・プロデューサーのKASKADEが夜の時間帯に向けてさらにオーディエンスを盛り上げる。オーストラリア出身フィリピン系の人気アーティストYlona Garcia(ヨローナ・ガルシア)に続いて、88rising所属でアメリカを拠点に活動する日本生まれのシンガー・プロデューサーJojiが登場すると観客の熱気がグッと高まり、全曲イントロが流れるたびに会場が湧き大合唱が起きた。
Double Happinessステージのトリを飾ったのは、今年の夏にアメリカツアーも行い世界でファンを増やしている日本の4人組ダンスヴォーカルユニットATARASHII GAKKO!(日本では新しい学校のリーダーズとして活動)大きなステージ上で一糸乱れぬ圧巻のパフォーマンスを見せ、観客の視線を釘付けに。ロック、歌謡曲、テクノなどさまざまなビート、音楽性を横断しながら、日本のカルチャーモチーフと日本語のユニークな響きを遊び心たっぷりにかけ合わせた独自の世界観を全身を使って表現し、海外公演によって一層磨きあげられたクリエイティビティで88risingの一員として大きなインパクトを与えた。22時を過ぎたころ、ジャカルタ出身のR&BシンガーNIKIが88↑ステージにヘッドライナーとして立ち、表現力豊かなボーカルで初日の夜をドラマチックに彩った。
Text by 奥浜レイラ