2022年10月〜11月、西東京の秋川渓谷に位置する多摩あきがわライブフォレスト自然人村にて「トーキョーマウンテン」をテーマ&タイトルにした野外音楽ライブ企画が次々開催され、“中央線で行く 新宿から約60分の別世界”でのワークショップやアクティビティなどの“山遊び”プログラムが展開された。
そのヘッドライナーを飾った、11カ国20公演及ぶヨーロッパサマーツアーを終えて勢いに乗る「民謡クルセイダーズ」。福生在住のリーダー田中克海と、トーキョーマウンテン(以後TM)主催であり、あきる野に暮らす鈴木幸一(以後南兵衛)は数年来の交流があり、本開催でのスペシャルアクトも、そんな「地域の輪」の中で実現したものだったと言う。
今回はそんなTM主催、アースガーデン代表の南兵衛をホストに、民謡クルセイダーズリーダー田中克海とFestival Life代表の津田昌太朗の3人による対談が実現。前編では民謡に込められた地域カルチャーへのリスペクトと、活動を続ける中で感じた〝盆踊り〟の可能性や、海外フェスからみる日本型フェスの未来を。また後編には音楽の「訛り」や、伝統文化とフェスの共存、そして西東京を中心とする音楽カルチャーのこれからについて、ローカルトークに花が咲いた対談の様子をお届けする。(Text by 野呂瀬亮)
「東京の山が民クルを生んだ!?」トーキョーマウンテン出演と西東京の輪
南兵衛:10月のTMは、7月から8月下旬までのヨーロッパツアーを終えて以降初のライブだったの?
田中:ヨーロッパツアー後に1ヶ月休んで、10月1日(土)の「たちかわ妖怪盆踊り」に出演してからの、TMという流れでしたね。立川は無料の盆踊りイベントで少し雰囲気が違うものだったんで、所謂フェス的なフォーマットは久しぶりということで気合いを入れて挑みました。
南兵衛:民クルのライブは何回も見たことがあるけど、今回のライブは本当にノリにノってる!っていう感じだった。バンドとしての勢いと、音の充実を感じたんですけど、演奏している側としてはどうだったんですか?
田中:いやーよかったですね。やりやすかったですし。自然の中の空間で、ステージも立派になって。民クルがライブフォレストでライブするのは三回目なんですけど、行く度にバージョンアップしてるじゃないですか。最初はバーベキュー場みたいな感じだったのに(笑)
南兵衛:(笑)
田中:そこから段々周りの設備や舞台がドカンと出来上がって。充実した環境でライブが出来たので本当に楽しかったです。
南兵衛:嬉しいね。そういう意味ではライブフォレストは民クルのホームだと言ってしまいたいくらい。こういう地域の拠点があるという感覚についてはどう思います?
田中:地元でやれるっていうのはいいですね。福生のバンドだと言っていながらステージキャパ的なハードルもあったりしてあまりこの辺りでやれてなかったので。隣の町なので仲間たちも来やすいし、非常に民クルとしてもありがたい場所ですね。
南兵衛:民クルがいるからステージも頑張って広げちゃったみたいなところもあるからね。主催者側として「誰と一緒にできるのか」って気持ちは確実にあるので。民クルは今まさに旬を迎えていくバンドだし、東京の山と民謡の音楽的な関わりとかも踏まえていろんな意味でバッチリとハマってくれることが見えていたから。
津田:田中さんの家からあきる野まで確か20分くらいでしたもんね?
田中:そうですね。住み始めて20年になりますが、この場所がすごく気に入っていて。中央線から来て福生には横田基地から始まったサブカルチャーの源流みたいなものがあって、その更に奥にはあきる野のマウンテンサイドのカルチャーがある。そういう日本のサブカルチャーの文脈が繋がっている西東京に身を置いているのが自分としては良いんですよね。
南兵衛:民クルを軸にしたこのバナナハウスは、まさにいわゆる「福生の米軍ハウスカルチャー」みたいなものを現在に繋いでいる数少ない存在だよね。
田中:バックボーンを知るというのもことも音楽の楽しみ方の一つだと思っているので、自分たちも意識的に民謡という音楽性とか「土地に根差した活動」は特に意識している部分ですね。個人的にもそういうものに自然と引かれるタイプですし。
南兵衛:民クルの地域性ということでいったら、もう一人、ボーカルのフレディ塚本もあきる野在住で欠かせないわけだよね。
田中:欠かせないですね 。
南兵衛:福生という町の米軍基地のミクスチャーな文化からギタリスト田中が生まれて、あきる野の山の文化から民謡歌手フレディが生まれて。その二人が出会うことでさらに人の和が広がって民謡クルセイダーズができていったんだね。
田中:福生の音楽好きな飲み友達から繋がった仲なので、まさにこの土地が繋げてくれた関係ですよね。
「〝盆踊ラー〟現る!」盆踊りが生み出す新たなダンスカルチャー
南兵衛:さっきたちかわ妖怪盆踊りの話もでたけど、田中君的にはこの盆踊りの流れをさらに強めて行って何かできたらいいんじゃないかっていうのもあるんだよね?
田中:音楽の楽しみ方として、通常のライブだとお客さんはバンドの対面式の関係性なのに対して、盆踊りなどのお祭りでは、集う人々は輪になってぐるぐる踊るじゃないですか。普段は交わらない不特定多数な人達が能動的に垣根なく参加できる混沌とした盆踊りに可能性を感じるんですよね。
津田:僕もたちかわ妖怪盆踊りに参加したんですけど、妖怪に仮装して踊っている人がたくさんいる、すぐそばで子どもが水遊びをして走り回っている。そこには家族連れも若者も年配の方もいて、フェスで見かけるような人も混ざり合っている。フェスって言っていいのかわからないけど、とにかくその空間が面白くて、どこか不思議なんだけど豊かな光景というか。フェスという視点で捉えてみると、独自の新しい流れではありますよね。
田中:そうですね。11月5日(土)に出演した墨田区の盆踊りイベント「すみゆめ踊月夜」 の主催の岸野雄一さんも「盆踊りは普段出会わない色んな人が参加できる装置」と話していました。そんな古くから日本の地域や生活に根付いた音楽の在り方を改めて見直して、フジロックのようなフェスと融合させたら面白いんじゃないかなって。それってそもそもフェスが目指していることじゃないのかなとも思ってて。
南兵衛:活動していく中で民クルがそういうことの一つの依り代になれる実感とか手ごたえはどうなの?
田中:フレディ塚本がやっているこでらんに~みたいな民謡の方々と一緒にやっていると、その音楽で盆踊りを踊りにくる〝盆踊ラー〟の方々が参加してくれるんです。結構各地に駆けつけてくれて、もう準レギュラーみたいな感じで(笑)
津田:へー、面白い(笑)
南兵衛:こでらんに〜は11月のトーキョーマウンテンでも、LOW IQ 01やASPARAGUSといったまた別の踊りの質の音楽グループとの並びで出演してくれて、そこでも強力な〝盆踊ラー〟がステージ前で輪をつくって会場を巻き込んでくれたんだよね。
あと9月の地元イベントでも地元の町の広場でも。
田中:そこにたまたま通りかかった全然知らない人たちも見よう見まねで混ざって、変なグルーヴ感というか輪ができていって。民クルの活動と〝盆踊ラー〟の有様を見るとなかなかこれは面白いカルチャーなんじゃないかとは思いますね。輪になって踊ればお客さんもプレイヤーみたいな。
南兵衛:なるほど、まさにダンスカルチャーだよね。
津田:フジロックの前夜祭は盆踊りをやるんでんですけど、それを生音でやっても面白いし、フェスの中の演目というか、ひとつの要素として盆踊りの存在が見直されると面白いかもしれないですね。
田中:そういうこちゃごちゃしたものが交じわることでフェスが日本独自のものになると思うんですよ。コントロールしきれないワクワクも「祭り」の楽しみだと思うし、いい意味で既存の形をバラしながら日本人的な表現を模索していきたいですよね。
南兵衛:それは民クルが必然的に持つ役割みたいな気がするよ。民クルがここまでやってきた流れの先にある予感というか。
田中:最初はなんとなくぼやぼやしていたものが細かく見えてきた感じはしますね。
「今はアジアが熱い!」海外フェスからみるライブフォレストの可能性
南兵衛:ヨーロッパツアーの会場はどんな雰囲気だったの?
田中:ちょうどサマーホリデーシーズンで、1ヶ月の間に中世の古城跡地とか、古い修道院とか変わった場所で、毎日色んな国のアーティストが出る中に参加させてもらったんですけど。そこにはコンサート型のフェスとアート鑑賞型のフェスが混在していて、日本のフェスの在り方とは全然違ったんです。津田さんは海外の色んなフェスをみてこられていると思うんですけど、今海外のフェスってどんな状況なんですか?
津田:実は今アジアのフェスがめちゃくちゃ面白いんですよ。若者の人口比率が増えて、経済 も文化も急成長しているところにいきなりフェス文化が入ってきて、そのアンバランスさが 逆にカオスで独特なものを生んでいるんです。
田中:なるほど、面白そう!(笑)
津田:ジャカルタとかフィリピンは若者が多いのに、いわゆるフェスの形が整ってきたのが5年〜10年とかで、まだまだ過渡期なんです。先週見に行った88risingが主催するHead in the Clouds Festivalには日本からYOASOBIが出たりしていて。これから日本のアーティストはどんどんアジアに出ていくと思うし、アジアのアーティストももっと日本に来るようになると思う。そういう流れの中で民クルもぜひアジアでももっと活躍してほしいですね。
田中:行きたいですねぇ!
津田:民クルは今ヨーロッパの方でとても人気があるけれど、アジアでももっと需要があると思うんですよ。
南兵衛:アジアのフェスで特に印象的だったことはある?
津田:先週行ったフェスは宗教的な理由などもあって会場でお酒が売ってないんですよ。だけど人はそれで踊る。あと日本だとお祭りとかフェスって昼のイメージもあるんですけど、赤道に近い地域は暑いから、少し遅めのスタートのフェスやイベントが多い。タイのフルムーンパーティとかは昔からあって、暑いからこそ夜踊るみたいなこともあると思うんですよね。
南兵衛:信仰や風土に根付いた形ができているんだね。
津田:そうですね、だから今混沌としているアジアではまた違う形のフェスが発展していくんだと思います。そんな潮流の中で、ライブフォレストもアジアのエッセンスを取り入れる道を考えてもいいと思いますね。現状としては、円安ということもあって欧米に行くハードルは上がっているし、来日するアーティストももしかしたら少なくなるかもしれない。逆にアジアは物理的にも近いし、人の交流や文化の交流は必然的に増えていくはず。日本のフェスシーンも音楽シーンも、今まで以上にアジアに目を向けなければいけない世界になると思うんですよ。
南兵衛:確かに台湾に行くアーティストがすごい増えたりしているもんね。
津田:すでにそういった兆しはありますが、タイやフィリピン、インドネシアとかに行くアーティストももっと増えると思いますね。逆にさっき話していたような日本独自のフェスや盆踊りのような文化を体験しに、アジアから人がやってくるということも起こる気がしています。
Text:野呂瀬亮
Interview Photo:折井康弘
令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成
民謡クルセイダーズ
かつて戦後間もない頃、偉大なる先達――東京キューバンボーイズやノーチェクバーナが大志を抱き試みた日本民謡とラテン・リズムの融合を21世紀に再生させる民謡クルセイダーズ。東京西部、米軍横田基地のある街、福生在住のギタリスト田中克海と民謡歌手フレディ塚本を中心に2011年に結成。基地周辺に今もなお点在している築70年の米軍ハウスの一棟、通称「バナナハウス」をスタジオとしてセッションをスタート。失われた音楽「日本民謡」をもう一度、「民の歌」として蘇らせるため、カリビアン、ラテン、アフロ、アジアなど様々なダンス・ミュージックとの融合を試み、2017年に1stアルバム『エコーズ・オブ・ジャパン』を発表。2019年、同作がイギリスでリリースされ、コロンビアやヨーロッパ・ツアーを敢行。2020年にはオーストラリアとニュージーランドで開催されているフェス、WOMADに出演。同年、コロンビアのバンド、フレンテ・クンビエロとのコラボレーションEPをリリース。2022年夏にはコロナ禍を超えてヨーロッパのフェスティバル・ツアーを敢行するなど、国内外で高い評価を得ている。
公式サイト
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