フェスな人008 | 阿蘇ロックフェスティバル発起人・泉谷しげるに直撃インタビュー!

開催延期となった2016年の阿蘇ロックを経て…

ロック・フェスはやっかいなやつらを集めてこそ

―そして第二回が翌年に予定されていましたが、この年は直前に起こった熊本地震によって、残念ながら開催延期となってしまいました。

だから、今年は何としてでもやりたいと思っていましたね。去年のチケットも使えるようにして。ただ、熊本地震があったからといって安易に「(被災地)救済」に傾いてしまうのは止めたかったんですよ。その気持ちは分かるし、それを掲げても構わない。でも、これはもともと復興のために作ったフェスではなくて、「女たちのロック・フェス」として始まったものなんだから、その本分は忘れちゃいけない。だから、大したことができないのに安易に「熊本地震救済」と言うのはやめろ、と。それよりも自分たちの本分を全うして熊本に人がたくさん来てくれた方が、結果的には地元のためになる。それを忘れるなということが今年の一番のポイントでした。もちろん、俺だって支援はしたいし、去年も気持ちとしては延期せずに行きたいと思ったけれど、そこは心を鬼にして、万全の状態で迎えるようにしようと考えてね。そもそも、熊本の人々の生活が大変なときに行っても、邪魔になるだけだし、気を使わせちゃうじゃない。もっとお客さんも大きな気持ちで会場に向かえるようになった方が、地元の人たちのためにもなると思ったんですよ。そこは考えなければいけない。

―「下手に優しさを安売りするのがいいとは限らない」ということですね。

まったくその通りですね。それよりも、純粋に「阿蘇ロックフェスティバルを楽しめる」ような状態になってもらわないと。俺は今まで救済活動を色々とやってきたこともあって意外に思われたかもしれないけど、そもそもフェスは思想があってやるべきじゃないんだよ。俺は単純に美味いもんが食いたいからやってるんだ(笑)。政治的なことや、思想的なことに何とか巻き込まれないようにするのが、主催者の役割だしね。それでなくても、考えるのはそれぞれがみんな考えているんだから、それをあまり出さんでもいいだろう、と。

―余計な色をつけるのではなくて、全員が純粋にフェスを楽しめる状態にしたい、と。

そういうことですね。

―さて、今年のラインナップは泉谷さんを筆頭にウルフルズ、サンボマスター、スチャダラパー、電気グルーヴ、レキシの池田貴史さん、WANIMA、LEGENDオブ伝説 a.k.a サイプレス上野さんということで、昨年とほぼ同じラインナップになっています。一年後にもう一度同じメンバーが集まってくれるというのは本当にすごいことだと感じました。

もう、奇跡ですよ(笑)。でもこれはね、ミュージシャンにも断る権利を与えることが重要でしたね。泉谷から電話がかかってきたら、みんな断れないか、怖がって無視するかのどっちかでしょう(笑)。だから、スタッフを通してやりとりをして、自分からは一切アーティストに直接連絡をしないようにしました。それに、熊本の女がやるフェスティバルなんだから、矢面にはお前らが立て、と。そこで彼女たちがどうするかが大切なんです。俺は地元の本当のところは分からないわけだから、地元の事情には口を出さないようにしてね。たとえば、開催までには地元の人たちや企業との間で色々と調整する必要があるわけだけど、俺がやると役所相手でも、一発で全員「ばかやろう」で終わっちゃうから。

―(笑)。今年の出演者にはどんな魅力を感じていますか?

これはとってもいいですよ。ウルフルズは仲がいいし、電気グルーヴはちょっと生意気だし、みんな馴れ馴れしくない、それぞれが自分たちの道を独自に切り開いてきたやつらで。ロック・フェスはそういうやっかいなやつらを集めてこそですよね。戦ってるやつらは美しいから。最初から仲良くする必要なんてないし、みんながそれぞれにいい演奏をすればいい。

―泉谷さんはよく演奏中に観客に向かって「手拍子はやめろ」と言われますが、そうしたエピソードにも通じるお話ですね。

そう、あんなの馬鹿げてるよ(笑)。あいつら、手拍子を始めたはいいけど、そのあとどこで止めるか考えやがってね(笑)。この間も福島に行ったときに演奏を始めていきなり手拍子が鳴り始めたから、「そんなのやめろ!」って言いましたね。あと、被災地だからといって、甘い顔をしちゃいけない。やっぱり、いい音で、いい演奏をしなくちゃいけない。だから、それぞれが尊敬を持てるような演奏をしてほしいですね。別のアーティストを観に来た人にも「こいつの演奏もなかなかだね」と思わせてほしい。「下手な演奏をやってみろ、このやろう!」ってね(笑)。この間も(担当する新聞のコラムに)書いたんだけど、無料のフェスティバルで「今日の客は駄目だ」とアンコールもやらずに怒って帰っちゃったバンドがいてね。でも、ミュージシャンなら最初から歓声を期待するんじゃなくて、それを振り向かせてこそなんだよ。「てめえらの演奏が悪かったからじゃねえかよ」って思うね。そもそも、演奏に集中していたら、観客の歓声は「遠くの方でなんか言ってんな」ってぐらいの感じになると思う。メンバー同士も「てめえこのやろう」って演奏をしていればね。


―では、今年の当日の泉谷さんのステージは、どんなものにしたいと思っていますか?

それはね、第一回開催のときと全く同じメニューですね。

―ええっ、今演奏について熱くお話しいただいたところじゃないですか!(笑)。

冗談、冗談(笑)。とにかく、お客さんが観たいのは、アーティストの真剣さですよね。面白おかしく、楽しくやることを真剣にやってもいいし、すごいスピード感でやってもいい。それは自由だけど、とにかく、その人たちの100%を見せるようなライブにしてほしい。それをお客さんに観てもらいたいですね。そもそも、ロック・フェスが流行っているのだって、アーティストの真剣な生の演奏が見られるのが理由だから、演奏はとにかく真剣勝負。予定調和のセッションも企画しないし、余計な飾りをつけずに、プレイやステージングのすごさを楽しんでもらいたい。そうして演奏が観客にウケたミュージシャンは毎回でも出てほしいし、俺自身も演奏がウケなかったら「来年は出られないかもしれない」というぐらいの気持ちでやりますよ。俺のがウケなくて「泉谷はダメだ」って言われたら、来年は会場で雑用か司会進行をすることになるだろうな(笑)。

―(笑)。発起人である泉谷さん自身も真剣勝負だということですね。

そうですね。そうやって厳しくみんなにも言ってありますよ。

―今年会場に向かう方に向けて、何かメッセージをいただけますか?

みなさんに言いたいのは、とにかく不便なところだよ、ということですね。ロック・フェスなんで、それは覚悟してきてほしい。「簡単に観れると思うなよ!」というかね(笑)。その不便さを楽しんでほしいです。もちろん、交通の不便さを緩和したい気持ちもあるから、前倒しで来てくれれば、前夜祭的に「泉谷しげると星を見る会」という気持ち悪いイベントも用意してますよ。俺だったら泉谷と星を見たいとは思わねえけど(笑)、でも熊本の星は最高。あとは、ロック・フェスに温泉もついているから、早めに来て温泉にも入ってもらいたい(リストバンドを提示すれば対象店舗での入浴が可能)。飛行機代も込みで2万円弱で熊本に行けるというのもかなり安いですから。まぁ、そうやって色々やってでもやりたいということなんですよ。

―泉谷さんがそこまで「このフェスをやりたい」と思うのはなぜなのでしょう? 過去にフェスにまつわる印象的な体験があったからなのでしょうか?

いや、印象的な体験というよりもね、フェスをやっていると最初は無理難題だと思っていたものが、意外とやれちゃうんだな、と分かることがあるんですよ。たとえば、自分が「阿蘇ロック」とは別にやらせてもらっている宮崎県の「水平線の花火と音楽」だって、最初は飛行機も2便しかなくて、端に追いやられてかなり不便だったったものが、回を重ねていくうちに飛行機のタイアップがつくようになったりしてね。そうやって今は不可能だと思えることでも、何年もかけてやっていけば実現する可能性がある。だから、これからも無理難題を面白がってやっていきたいですね。フェスはお客さんの熱気だけでなく、スタッフや地元の熱意が合わさって生まれるもの。そして、来てくれる人にはやっぱり、不便さを楽しんでもらいたい。不便なものごとの方が、後々思い出に残りますから。

Interview/Text by 杉山仁
Photo by 横山マサト

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阿蘇ロックフェスティバル2017

日程:2017年 5/27(土)
場所:熊本 野外劇場アスペクタ
出演:泉谷しげる with バンド、ウルフルズ、サンボマスター、スチャダラパー、電気グルーヴ etc.
公式サイト:http://aso-rockfes.com
関連ページ:阿蘇ロックフェスティバル | Festival Life

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