日々の生活の積み重ねから生まれるフェスティバル
-そうやって繋がった仲間とイベント制作から飲食店の経営などを経てフェスの開催に至っていくと。
ライブハウスや飲食事業を進めつつ、当時フェスといえば、サマソニ、フジロックのような4大フェスとと呼ばれるものはもちろんあったけど、中規模なフェスも今ほどたくさんなかったので、自分たちのフェスをやりたいよねっていうところからスタートしました。
-始まりは2007年の埼玉県・所沢航空記念公園ですが、この場所した理由はあるんでしょうか?
たまたまその一年前に別のイベントで現地のクルーから舞台進行を頼まれて、会場入りしたときにいい場所だなと思っていて、フェスをやるってなったらここでやりたいなと思ってて。当時は特にパッションのままに生きてたんで、とにかく勢いもありましたね(笑)。
-企画するにあたって当時はどういう状況だったんでしょうか?
やはり最初は舐められるというか、僕たちに対しての周囲の目も厳しかったですね。アーティストにオファーしても連絡も返ってこなかったり、そもそも企画内容すらも見てもらえなかったり。でも徐々に色々繋がっていって、実績を積んでいるうちに、そういった人たちも巻き込んで形にできたっていうのは強く覚えています。
-ラインナップを決めるときにどんなことをこだわっていますか?
最初の年から向井秀徳(ZAZEN BOYS)さんやSCOOBIE DOにも出演してもらえたんですが、そのときから今までで僕らが誇りに思っているのは、出演してもらうアーティスト全員が、自分たちと目と目を合わせて会話できる人しか出てもらってないことですね。単純にたくさんお客さんが入れば良いというわけじゃなくて、僕が目で見て間違いない!というアーティストの皆と一緒にフェスを創って成功させたいというか。iriちゃんやSIRUP、LUCKEY TAPESなど若い勢いのあるアーティストもフックアップしていきたいし、20年以上のキャリアを持つRHYMESTERやPUSHIMさん、韻シストなどのレジェンドアーティストの皆さんの魅力も伝えていきたいなと。
-そういった関係をアーティストと築けているフェスというと、まるでアーティスト主催のフェスみたいですね。
そうかもしれません。というのもなかなか難しいんですよ。アーティストの皆さんとそういうフラットな関係を作ることって。僕はライフワークの中の一つとして「夏びらきフェス」を開催しているので、フェスだけがメインの仕事というか事業ではないんです。ライブハウスで毎日ライブを実施して、全国各地で日々様々なイベントを開催して、足を使って沢山のイベントやライブを観に回ってます。「夏びらきフェス」は、そういった日常の”点”が繋がってできた”大きい点”なだけであって、日常の積み重ねの方が大事であると常々思ってます。あとは音楽やイベント事業だけでなく、ライブハウスや飲食店の経営のなかで、様々な方々と話せる機会が多く、色々な価値観を知ることができたのも良かったと思ってます。
-次はフェスの運営側の話ですが、運営スタッフが普段経営している飲食店のスタッフだったりすることは、あまり他のフェスではみられなかったスタイルですよね。
そうですね。立ち上げの2007年から2017年までは、エスエルディーの社員やアルバイトのスタッフ中心で企画制作運営をやってましたが、2018年以降は「夏びらきフェス」に直接関わる人間は僕一人になったんです。会社の規模や環境も変わってきて、通常業務にも支障が出てきてしまったりするこもあるので、会社からは僕一人が関わって、外部のプロフェッショナルなパートナーの皆さんとイベント制作を行う形に変えました。でも、社員やアルバイトスタッフの皆は、家族も含めて全員招待で楽しんで頂ける形にしています。
-最初はみんなで作り上げて、形になったら自由に遊びに行ける状況になっていったと。
そうですね。福利厚生でフェスに参加できるみたいな(笑)。日々頑張っている社員やアルバイトスタッフのみんなには特別楽しんで欲しいですね。
-そうして規模も拡大して、開催都市も増えています。他都市への展開はどういう意図だったのですか?
もともと「フェスありき」ではなくて、経営する飲食店が全国各地にあって、その延長線上としてのフェス開催ということだったので、店舗がある街でフェスをするという意図というか流れですね。そもそも各地でお店を展開するときは、地方によっては必ずしも歓迎されるわけじゃなかったりもするんです。東京でやってた人間が地方に出てくるのを煙たがられるというか。そういった状況の中で、東京で「自分たちのフェスを作りたい」って思って実現してきたようなことを、他の地域でもやりたかったってことですよね。僕たちは、その土地にしっかりと根を下ろしてエンターテインメントを発信するんだ!という本気度を示したいというか。
-東京だけ特別というわけではないと。
なので、規模感に関してもお客さんとも目と目を合わせられるぐらいの規模が良いと思ってて、上限は大体2000〜3000人くらい。1万人規模のフェスにはしたくないなと思っています。それくらいの規模感でどれだけ多くの地域でできるかを考えるほうが楽しいですね。
-店舗とと共に街を盛り上げる場所としてフェスを作っていくという感じですか?
そんなイメージです。ただ店舗の出店にも限界はあるので、面白いことができそうであればやりたいと思っています。フェスを開催すると、その地域の様々な仲間達と繋がることができますし。今年は3月に石垣島でもやりましたし、来年も開催エリアを増やそうという動きはしています。年に一ヶ所ずつ増やせたらいいですね(笑)。
-気づいたら夏だけじゃなくて1年中どこかでフェスをやっているみたいな?
できるかなぁ(笑)。いい意味で「夏びらきフェス」はうちの会社にとってすべてじゃなく、むしろ毎日の積み重ねの方が重要で、その日々の集大成として、全国各地いろいろな場所で展開していけたら良いかなと思っています。
-そういったところも他のフェスとは変わった思想だと思うのですが、マシさんは他のフェスに影響は受けたりしているんですか?
「フジロック」や「サマーソニック」はもちろん、「横浜レゲエ祭」、「グリーンルーム・フェスティバル」の存在も大きいかなと思います。あと宮古島でやっている「宮古島ミュージックコンベンション」を主催している江川ゲンタさんは、やはり僕の心の師匠ですね。
-東京に行くきっかけにもなった方ですね。
そうです。そのゲンタさんがやっている「宮古島ミュージックコンベンション」は、宮古島の美しい大自然の中でライブ中心のコンサートを行う「昼の部」と、宮古島の音が鳴らせるBARや居酒屋を、サーキット形式で自由に行き来できる「夜の部」というのがあって。「昼の部」に出演していたEGO-WRAPPINだったり、山崎まさよしさんが「夜の部」では普通に各所で飲んでて、勝手に歌いはじめたり、セッションが始まったり そういった自由な雰囲気の中で、宮古島自体を楽しんで欲しいと…いうメッセージを発信しているフェスなんです。初めて体験したときはもの凄い衝撃で、そういった意味で僕がフェスを作る上での礎というか、かなり影響を受けたので、ゲンタさんが師匠だと思っています。
-ただ音楽を楽しむのがフェスというわけではないと。
そうですね。もう様々な業界で言われてることですが、世の中の消費の仕方が「モノ」主体から「コト」主体に移り変わっていく中で、年々フェスは増えてきてるけど、「コト」の質をなめていたらやっぱり潰れてしまうと思うんです。どこか手を抜いたとか、魂が入ってないっていうのはお客さんに必ず見抜かれるので。
-コトだけでなく、意味消費っていう概念も出てきてますね。コトがあればいいではなく、なんでそれが良いのかという意味も問われ始めていると思います。
そうですね。なんで自分たちがその場所で、その規模で、そのコンテンツでっていうところがしっかりしてないと、そこに価値を感じてくれるのは難しくなってますね。そういう意味では「宮古島ミュージックコンベンション」はやっぱりすごくて、「夏びらきフェス」もそういった存在を目指しています。さっきの話でもでましたが、一つの”点”ではなくて、日々の色んな”点”をつなげて”線”にしていけたらなと。
-それでは最後になってしまいましたが、今年の見どころについて教えてください。
大阪に関しては見事チケットが完売しました。本当に嬉しいことです。福岡に関しては、個人的にも過去最高のラインナップが集結するブッキングになっていると思います。ずっとやりたかった「お笑い!夏びらき」で、くまだまさしさん、なかやまきんに君も出演しますしね(笑)。
-東京は今年から会場も変わります。
そうですね。会場が立川のアリーナ立川立飛に変わって規模もかなり大きくなりました。これまで1日5〜6組出演だったのが1日20組ぐらいの出演者になるので見応えも十分かと。アーティストに関しては出演してくれる皆がメインアクトだと思ってるんで、誰が注目とかじゃないんですが、強いていうなれば、各アーティストの最高のライブ演奏はもちろんですが、彼らの発信するMCやメッセージを受け取って欲しいと強く思ってます。アーティスト皆さんの「生き様」を間近で体感して、 「新しい何か」を発見して、 皆さんの「心の新陳代謝」となれば嬉しく思います。
-日割りにもかなりこだわっているとか。
僕からは一切お願いはしてないんですが、このアーティスト同士を並べたらコラボしそうだなっていう日割りになっていると思います。もしかしたら何かがあるかもしれないっていう 毎年そんな感じ…で、自分の想像を超える何かが起きるので、今年も楽しみにしておいてもらえたらと!
Interview:Shotaro Tsuda
Interview Photo :Etoo
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