Festival Lifeでは、2021年3〜4月に関西国際大学・永井純一准教授と共同で、「地域とフェスについての関係」についての調査をフェス主催者に対して実施しました。本コラムでは複数回にわたり、調査のデータを参考にしながら、これからのフェスと地域の関係性について深掘りしてもらいます。(Photo: hoshioto)
永井純一教授コメント
関西国際大学の永井純一ともうします。フェスティバルライフでは過去にもコラムやポッドキャストなどでお世話になっています。前回のコラムでは、調査結果をもとに、フェスと行政の連携状況について紹介しましたが、今回はその他の団体や市民との関係について探っていきたいと思います。
団体や市民との関係
前回のコラムで、調査に協力してくれたフェス主催者の名目としては実行委員会がもっとも多く,全体の65.8%であったことを紹介しました。実行委員会の内訳については多いものから順に個人(55件)、プロモーター・制作会社(24件)、一般企業(23件)、行政・自治体(9件)、その他(9件)でした。これだけをみても一つのフェスを作るのにさまざまな人々が関わっていることがわかります。「個人」が最も多いのは意外な気もしますが、全国にたくさんある手作り感のあるユニークなフェスの背景には、こうした音楽好きな人々の情熱があるのかもしれません。アメリカやヨーロッパのフェスだと、もっと企業が前面に出てくるので、この傾向は個人的には面白いと思っています。なお、その他の内訳にはライブハウス・カフェ、会場管理者、アーティスト、テレビ局、音楽マネジメント事務所、音楽レーベルなどがあり、これもバラエティに富んでいます。
前回はフェスと行政の連携状況について紹介しましたが、今回はその他の団体や市民との関係についてみてみましょう。図1はフェスと公的な機関・団体(行政を除く)や民間・市民団体との連携状況についてまとめたものです。公的機関については「保健所」、「消防署」、「警察」の割合が高く、3割程度が「しっかり連携している」、6割以上のフェスが連絡をとっていると回答しました。フェスを行う会場によっては、これらは許可や報告など業務上の連絡が必要な部署といえそうです。フェスによっては、これが地域社会との最初の接点となることもあります。
次いで多いのが「観光協会」「商工会・商業団体」でやはり3割程度のフェスがしっかり連携していると回答しています。保健所などとの関係が事務的なものだとすると、こちらはやや地域社会に踏み込んだものになります。地方のフェスに行くとこうした団体が、PR用テントやブースを出しているのを見かけることがありますので、ライブの空き時間に覗いてみると面白いかもしれません。親切に対応してくれることが多いので、その地域のことがわかるだけでなく、コミュニケーションを通じてフェス自体への興味も高まります。
一方で「教育機関」、「文化財団」は低い数値となっています。アート系のイベントや芸術祭だとこれらが受け皿や窓口になっていることが多いのですが、同じフェスティバルでもアートといわゆる「民間」が主体となることの多い音楽では地域社会との関係や立ち位置が異なるといえそうです。
図2はその他の民間団体・市民団体との連携状況をまとめたものです。「ローカルメディア」、「一般企業」の数値が高く約半数がしっかり連携していると回答しました。ともに地域を盛り上げるローカルメディアはフェスにとって欠かせないパートナーといえそうです。
一般企業に関しては、やはり会場でテントやブースを見つけることができます。商品サンプルやノベルティなどのお土産をもらったことがある人も多いのではないでしょうか。個人的には、北海道の「OTO TO TABI」というフェスでもらったロゴ入り軍手が思い出に残っています。まだ寒さの残る時期だったので、助かりました。
また、フェスの公式サイトやポスターをよくみると主催や共催、後援などに地方の放送局や一般企業の名前をみつけることができます。自分の好きなフェスがどのような体制で運営されているかを調べると面白いかもしれません。
その他には「町内会・自治会」と「NPO・市民団体」で約3割、「公共交通機関」で2割以上のフェスがしっかり連携していると答えましたが、「事務連絡を行う程度」を含めると倍近い数値になります。音楽フェスでは人混みや騒音の問題がつきものなので、住民への説明や告知は重要です。会場となる施設がこうした連絡を手伝ってくれることもあるようです。たとえば一個人がどこかの土地を会場にして、フェスを勝手に開催することは、できなくはないかもしれません。しかし、このように、いざ開催しようとなると自ずと地域社会との関係が生じます。末長く愛されるフェスにするためには、地域への連絡や説明を果たし、理解を得ることが大切だといえます。たとえば、岡山の「hoshioto」は開催を重ねることで地元での認知が高まり、市長さんが「地元の宝」と言うまでになりました。
次回は、「フェスが地域社会からどのような支援を受けているのか」を深掘りしていきます。
著者:永井純一
関西国際大学現代社会学部准教授。博士(社会学)。国内外のフェスをめぐり、社会との関係を研究する。著書に『ロックフェスの社会学——個人化社会における祝祭をめぐって』(2016、ミネルヴァ書房)、『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(共著、2019、花伝社)、『音楽化社会の現在』(共著、2019、新曜社)、『コロナ禍のライブをめぐる調査レポート[聴衆・観客編]』(共著、2021、日本ポピュラー音楽学会)など。
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