圧倒的な景観で行われる新世代の音楽フェス
「岩壁音楽祭」の最大の特徴はなんと言っても高さ50mになるという断崖絶壁に囲まれた会場だろう。こういったロケーションの中で行われるフェスはそうそうない。会場は2ステージ3エリアで構成されており、ライブアクトが中心の岩壁に囲まれたWALLステージ、四角にくり抜かれた独特な形状を持つ洞穴でDJアクトがメインとなるCAVEステージ、そして飲食店が並ぶフードエリアにくつろぎ空間のPIXELエリア、オブジェが設置され憩いの場となっていたIMONIエリアが用意されている。
フェスの開場は朝10時、夜22時にクローズということで、野外フェスではあるものの、キャンプ泊ではなく、参加者は周辺の宿やホテルに宿泊するスタイルになる。筆者自身も最寄り駅となる赤湯駅から数駅先の米沢にホテルをとり会場へ向かった。実際に着いてみると想像以上のスケール感で、岩に囲まれるという圧倒的な自然の中にいながら、直線的な石の切り出し跡に人工的な作りを感じる奇妙なギャップに驚かされた。そこで爆音で音楽が鳴り、人が蠢く様はここでしか味わえない唯一無二のものだった。
フェス名が表す”岩壁”が特徴的なWALLステージも圧巻だが、洞穴内に展開されたCAVEステージも個性的な作りになっている。抜け感のいいWALLステージとは対象的に閉じられた空間にダンスミュージックとレーザーが飛び交う光景はレイヴ的な感覚も味わえる。
幅広い年齢層が参加していたが、全体としては若い層が多かったことが印象的だった。学生スタッフが多かったのもそうだが、運営は基本的に有志で作られた組織ということもあり、従来のフェスになかったさまざまなアイデアやクリエイティブが運営の随所に見られ、そういったところに新しい世代が共感して多くの人が集まったのだろう。
また、ユニークだったのは、受付でもらった参加者向けのパンフレット。マップやタイムテーブルに加え、注意事項などが書かれたガイドブックなのだが、それだけではなく運営マニュアル的な要素も書かれている。会場でスタッフが気にかけるべきポイントや、事前の設営から解体、撤収などの本番以外のスケジュールといった内容などだ。このフェスは第1回目から”オープンソースとしてのフェス”を標榜しており、制作過程の情報発信や、収支報告まで含めた事後レポートなど、情報の開示を常に行ってきた。その一環として、「参加者にも岩壁音楽祭を構成する一員として動いてほしい」という思いがあり、「知らないことを想像して行動するのは難しいので裏側まで分かる情報開示をしている」とのことだった。(公式noteでは収支をはじめ様々な情報が公開されているのでチェックしてみてほしい)
2019年に開催し、翌年2020年にはコロナ禍の影響を受け中止となったため、3年越しの開催となった「岩壁音楽祭」。実はコロナ禍においても、車で乗り付けてソーシャルディスタンスをとりながら参加できる「DRIVE IN AMBIENT」や宿泊型アンビエントライブイベント「STAY IN AMBIENT」など、逆境のなかでも音楽の場を止めず、クリエイティビティをもって挑戦してきた姿勢は日本のフェスシーンの新しい風の訪れを感じる。次回の開催は2025年になるとのことだが、3年という長いタームを経て「岩壁音楽祭」が仕掛ける次のフェーズはどんなものになるのか。新しい時代を感じさせる新世代フェスの動向がこれからも楽しみだ。
OFFICIAL PHOTO
Text:江藤勇也
Edit:津田昌太朗