動き出す世界の音楽フェス ワクチン接種義務化の流れ

欧米ではコロナ禍で音楽フェスティバルを開催するための方針ができつつある。

8月12日、ロサンゼルスに本社を置くコンサートプロモーターAEG Presentsがコロナ禍における音楽イベントのポリシーを発表。これにより10月から同社が所有・運営するクラブ、劇場、フェスティバルに入場にするにはワクチン接種が義務となった。2022年4月15日から開催される「Coachella」など多くのフェスティバルが今後このポリシーに従うことになる。

AEG PRESENTS TO REQUIRE PROOF OF FULL VACCINATION FOR U.S. CONCERTGOERS AND EVENT STAFF

8月12日、コンサートとライブイベントの世界的なリーダーである AEG Presetns は、所有・運営するクラブ、劇場、フェスティバルへの入場時にワクチン接種の証明を義務付けることを発表しました。この決定は、デルタ型が米国内で広がったことにより、新型コロナウィルスの感染者が劇的に増加したことを受けたものです。AEG Presents 社は、ニューヨークのWebster HallやBrooklyn Steel、ロサンゼルスのThe RoxyやEl Rey Theatre、リゾート・ワールド・ラスベガスのThe Theatre、Firefly Music Festival、Day N Vegas、The New Orleans Jazz & Heritage Festival、Coachella Music & Arts Festival など、象徴的な会場やフェスティバルのオーナーまたはパートナーです。

ワクチン接種のポリシーは、法律で定められた範囲内で、遅くとも2021年10月1日までに全国で完全に施行されます。すでにいくつかの会場では、地方政府によるワクチン接種の義務化に従っており、10月1日までの数週間に他の会場でも実施されることが予想されます。この日を選んだのは、ワクチンを接種していないチケット購入者やスタッフが希望すれば、ワクチン接種を完了できるようにするためです。10月1日までは、ワクチン接種の証明書または公演日から72時間以内に受けたの検査の陰性証明書の提示する必要があります。

AEGのCOOで、AEG Presentsの会長兼CEOであるジェイ・マルシアーノは、コンサート産業のリーダーとして、ワクチン接種の状況について立場を明らかにする責任があったと述べている。

ほんの数週間前までは楽観的に考えていました。しかし、デルタ株は、ワクチン接種への躊躇と相まって、私たちを再び誤った方向に向かわせています。これは極端な判断だと捉えられるかもしれませんが、正しい一歩です。最初は反発があるかもしれませんが、最終的には歴史の正しい側に立って、アーティスト、ファン、ライブイベント従事者にとって最善をつくすことができると確信し、期待しています。

AEGがワクチン接種について強い姿勢を示したことは、業界にとって大きなインパクトになる。ワクチン接種の義務付けは賛否はあるだろうが、この産業を存続させるという意思が感じられる。当たり前だ、音楽が鳴る場を生業にしている人はたくさんいる。

なお病気や体質でワクチンを接種できない人や接種が許可されていない12歳以下は検査を受け、陰性証明を提出することとなる。

私たちの積極的な姿勢によって、人々が正しい行動をとり、ワクチンを接種するようになることを願っています。

今週すでにジャズ・フェスティバルのキャンセルをお伝えしなければなりませんでしたが、コンサートが二度となくなってほしくないということは誰もが同意してくれるでしょう。

このジャズ・フェスティバルとは10月に開催予定だった「The New Orleans Jazz & Heritage Festival」のことを指している。ルイジアナ州はワクチン接種率が低く、ニューオーリンズ市内でも感染が拡大している。このようにポリシーができても、その開催地の感染状況が悪化した場合は中止・延期の恐れがある。また地方政府や連邦政府の方針によってポリシーが変更・撤回される可能性もある。

米ニューオーリンズのジャズ・フェスト、今年も中止 コロナ急拡大受け

フェスはスーパースプレッダーではない

同じく大手コンサートプロモーターのLive Naitonも同様のポリシーを発表した。

Live Nation will require vaccines or negative Covid tests from artists, customers

ワクチンはショーのチケットとなります。10月4日より、Lollapalooza向けに作られたモデルに従い、Live Naitonの会場や米国内のあらゆるフェスティバルに出演するアーティスト、ファン、従業員にこれを義務付けます。 10月4日以降、当社のイベント、会場、オフィスを訪れる際には、当社のすべての従業員がワクチン接種を受ける必要があります。

この発表の背景には、7月29日から8月1日にかけてシカゴのグラントパークで開催された「Lollapalooza」の成功がある。フルキャパシティで開かれたこのフェスティバルに入場にするには、ワクチン接種証明、もしくは参加日の72時間以内に行った検査の陰性証明の必須となった。マスクの着用は義務付けられていなかったが、シカゴ公衆衛生局からのアドバイスに基づき、3日目から屋内でのマスク着用が求められた。

同フェスによれば、ワクチン接種証明を提示したのは約90%で、証明書をもっておらず入場できなかったのは600人となっている。またファンの12%がフェスに参加するためにワクチン接種を受けると述べたことが明らかになっている。

シカゴ公衆衛生局のアリソン・アーワディ博士によれば、フェスティバルには4日間で約38万5千人が参加し、2週間が経った時点での陽性者は203名。これは参加者の約0.05%にあたり、その内訳はシカゴの住民が58人、イリノイ州からのその他の場所からの参加者が138人となっている。

陽性率はワクチン接種を受けた参加者の0.04%、ワクチン摂取をせず陰性証明を提出した参加者の0.16%で、8月11日の時点で入院や死亡の報告はない。アーワディ博士はフェスティバルが「スーパースプレッダー」イベントになった証拠はないと述べている。

COVID Chicago: City’s top doctor says ‘no evidence’ Lollapalooza 2021 a super-spreader event

もちろん懸念がないわけではない。ワクチン接種後の感染(ブレークスルー感染)は以前より伝えられており、無症状であっても感染を広げてしまう恐れがある。感染者が少なかったことは喜ばしいが、すべての参加者が検査を受けているわけではない。予防医学の専門家は不正確なコンタクトトレーシングに懸念を示しており、急増するデルタ株の感染を追跡することは難しいと述べている。シカゴの感染者は増加傾向にあり、ポリシーの有効性を確認するにはもう少し時間と分析が必要になるかもしれない。

‘Not a disaster’: Chicago officials tout Lollapalooza as success with ‘no evidence’ of being COVID-19 superspreader


【8月24日 追記】
イギリスのフェス「Boardmasters」では、抗原検査(ラテラルフロー)の陰性証明、ワクチン接種証明、自然免疫の証明のいずれかが入場に必要だったが、のちに約4700人が陽性になっている。陽性者の多くは16歳から21歳。BBCの記事でコーンウォールのドクターは「新型コロナウィルスは多くの影響を及ぼし、そのうちの1つは孤独と孤立とメンタルヘルスの問題に関するものです。フェスティバルは人々に大きな喜びをもたらしました。対処する必要はありますが、想定されたものです」と述べている。

英音楽祭で5000人がコロナ感染か 規制撤廃、大半が若者
Boardmasters: 4,700 Covid cases ‘may be linked’ to Newquay festival

英フェス「Boardmaters」で4700人陽性 イベント解禁にはメリットも


また偽のワクチン接種証明書も確認されている。証明書の偽装は違法であり、多額の罰金と懲役で罰せられる可能性がある。今後はこのような不正行為の対策も考える必要がありそうだ。

Crowded Lollapalooza music festival could bring cascade of Covid cases, experts warn

ミュージシャンも追従、しかし広がるデルタ株

フジロックと同期間にウェールズで開催の「Green Man Festival」、Live Nation系列の「Reading Festival」、「Bonnaroo Music & Arts Festival」や「The Governors Ball Music Festival」、「Austin City Limits Music Festival」ではすでに同様のポリシーが適用され、ワクチンを接種するよう告知している。

ミュージシャンたちもツアーのポリシーを定めつつある。Bleachers、Jason Isbell、Japanese Breakfast、Maroon 5などはコンサートに入場するために、ワクチン接種証明か検査の陰性証明を求めている。検査結果は48時間以内と「Lollapalooza」よりも厳しい基準が採用されている。

一方で状況を深刻に捉えているミュージシャンもいる。Garth Brooks、Limp Bizkit、Nine Inch Nailsは年内のすべてのライブをキャンセルした。いずれも感染拡大を懸念しての決定だ。

Neil Youngは、自身が創設者の1人であるチャリティ・イベント「Farm Aid」への出演を取りやめている。「Farm Aid」は完売しており、現時点では開催予定だ。彼はウェブサイトで次のような声明を発表している。

まだ安心できないからコンサートに行けないという人たち、俺もそう思う。俺が演奏しているのを見て、今はもう安全だと思ってほしくない。みんなが安全だと感じるまで、確実に安全になるまで演奏したくない。
音楽を聴きたいから、友達といたいから、そういった理由で誰かが死ぬようなリスクを冒すのは間違いだと俺の魂が言っている。

ロサンゼルス郡公衆衛生局は、デルタ株の感染拡大を懸念し、屋外のイベントであってもマスクの着用を義務付けた。これはワクチンを接種していても適用される。11月に開催される「Head in the Clouds Festival」はこの決定の影響を受けることになる。

L.A. County to Require Masks at Outdoor Concerts and Festivals

バイデン政権は、ワクチンの効果が時間が経つと減少するとして、9月から3回目のワクチン接種を行う方針を示している。

米欧景気、楽観論に影 「接種で急回復」揺らぐ
米バイデン政権 来月から3回目のワクチン接種行う方針

一時は復活が見込まれたコンサート業界だが変異株の脅威によって再び難しい決断を迫られている。予断を許さない状態ではあるが、AEGやLive Nationのスタンスはひとつの指針となるだろう。もちろんこれらのポリシーはワクチンを接種したい人が摂取できる、検査が簡単にできるようになることが前提であって、今の日本はその状況にない。

この先、変異株の感染状況によって彼らの対応も変化していくと思われる。ライブミュージックを早く取り戻せるよう、引き続き注視したい。

みんなもどうか気をつけて。

Text:Hiroyuki Oyama
Photo:©Charles Reagan for Lollapalooza

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