音楽とアートが交わる街へ ―「September JAM」共同実行委員長 菅真良×箭内道彦 インタビュー

福島県猪苗代町で今秋開催される総合芸術イベント「September JAM」。「風とロック芋煮会」と「オハラ☆ブレイク」という、それぞれ異なる歴史を歩んできた2つのイベントが手を組み、街全体を舞台にした新しい試みへと進化する。共同実行委員長を務める菅真良さんと箭内道彦さんに、これまでの歩みと今回の狙いを聞いた。

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菅真良

音楽プロデューサー/ARABAKI PROJECT責任者(GIP)。東北を代表する野外フェス「ARABAKI ROCK FEST.」を長年主導。震災時に「中止」ではなく「延期」を選び、東北のフェス文化を守り続けてきた人物。本イベント共同実行委員長


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箭内道彦

クリエイティブディレクター。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」など、既存の枠に捉われない数々の話題の広告キャンペーンを手掛ける。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。風とロック芋煮会実行委員長。2011年9月、福島県を西から東に移動した6日間のロックフェス「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」実行委員長。2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド 猪苗代湖ズのギタリストでもある。本イベント「September JAM」の共同実行委員長。

芸術祭の構想とふたりの出会い

同郷である2人の出会いは15年以上前に遡る。箭内さんが2009年に「207万人の天才。風とロックFES福島」を立ち上げ、そのステージ制作を菅さんが務めるGIPが手伝うことになった。ただ当時は、二人は気軽に話すような間柄ではなかったとのこと。しかし当時から、菅さんはすでに猪苗代町全体を舞台にした総合芸術祭の構想を温めていて、箭内さんとの連携を模索していた。「当初は仮タイトルで、『荒吐総合芸術祭』という企画書を作っていたんですよね。猪苗代町の町全体を使った、音楽を中心に置いた総合芸術祭をやってみたいと思って」と菅さん。2010年の暮れ、雪の降る中、福島民報社にいた箭内さんのもとを企画書を持って訪ねたのが、二人がじっくり話す最初の機会だったという。

総合芸術祭の構想のきっかけとなったのは、菅さんが2001年から手がけてきた音楽フェス「ARABAKI ROCK FEST.」が10周年を迎えた際、周囲から次の10年を考えるよう促されたことだった。参考にと勧められて訪れた「瀬戸内国際芸術祭」で、1シーズン3ヶ月をかけて自分のペースで巡れる魅力に触れ、着想を得た。箭内さんは2010年当時を振り返り、「ほぼ初対面みたいな感じだったけど、僕自身もアラバキへのリスペクトがすごくあった。菅さんが考えている次のことが”アート×音楽”ということには驚いたし、面白いと思った」と振り返る。自身も美術大学出身で、”音楽と美術の距離”を普段から感じることがあり、そういった新しい構想には強く惹かれるものがあったという。

しかし、その矢先の2011年3月11日、東日本大震災が発生。構想は中断する形になったが、箭内さん率いる風とロックは、6日間かけて福島県内を西から東へ移動する野外フェス「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」を行い、アラバキは震災直後の春開催を断念したものの、夏開催を実現し、故郷をイベントで盛り上げた。震災という困難をともに乗り越えたことで、二人は色んなことを相談する間柄になっていった。

奈良美智との出会いから生まれた「オハラ☆ブレイク」

震災後、なかなか本格的な芸術祭の立ち上げには進めない状況が続いたが、菅さんはこの頃、アラバキを通じて美術家の奈良美智さんと知り合う。2013年の打ち上げの席で、猪苗代町全体で行うイベントの構想を話したところ、数日後、奈良さんから「もう一度仙台に行っていいか」と連絡が入る。仙台で交わした会話の中で、奈良さんが提案したのが「まずは猪苗代湖のほとりだけを使い、テスト的な開催をしたらいいのではないか」というアイデアだった。参考として見せてくれたのが、スウェーデンの水辺で開催されるアートフェスの写真だったという。こうして生まれたのが「オハラ☆ブレイク」だ。

一方、箭内さんは2011年から2013年まで猪苗代でイベントを開催していたため、2014年に菅さんから「オハラ☆ブレイクをやる」と伝えられたときは、「場所がかぶるけど、菅さんは猪苗代出身だし、ここは譲ろう」とすぐ決めたそうだ。そこで箭内さんは自身のイベントの拠点を郡山に移し、野球場を使った形での芋煮会へと移行することになったのだが、そのおかげで今も続く「芋野球」が生まれることになった。「貸し借り、譲り合い、ときに無茶ぶり――そういう関係性が2人の間にはずっとあるんです」と箭内さんは笑う。

エディンバラ・フェスティバル・フリンジという転機

「オハラ☆ブレイク」がキャンプイン形式で規模3000人ほどのイベントとして地位を築いていく一方、菅さんの中では「猪苗代の町全体を舞台にしたフェス」という当初の構想が諦めきれずにあった。転機となったのは、フジロックを手がけるスマッシュの日高さんとの会話だった。自身の目標を話したところ、「それだったらエディンバラ・フェスティバルを見に行きなさい」と勧められたという。

しかし本業のコンサートツアーと時期が重なることもあり、なかなか踏み込めずにいた。転機が訪れたのは2024年。箭内さんの還暦記念イベント(さいたまスーパーアリーナ)が終わった後の打ち上げの席で、日高さんから言われた話を菅さんが箭内さんに伝えると、「じゃあ、行きましょう」とその場で決まり、その年の8月にエディンバラを訪れることになった。現地で目にしたのは、複数の主催者がそれぞれ異なる催しを同時期に開催し、それらを総称して「エディンバラ・フェスティバル」と呼ぶという構造だった。国際的な催しをやる団体もあれば、大道芸を集める団体、大学の軒下で古本を売る団体もある――十数もの団体が同じタイミングで集まってひとつの祭りを形作っている光景に、菅さんは強い衝撃を受けたという。「正確に言うと、こういうことをイメージして始めないと何も始まらないなと。最初から順風満帆に行くとも思えないし、人を巻き込むことだから時間もかかるのは当たり前」と菅さんは語る。

そんな経験を経て、生まれたのが「September JAM」だ。箭内さんは、全国に音楽フェスが乱立し、アーティストのブッキングが重複するなど難しさが増している現状を踏まえ、「これからの音楽イベントの形が、この辺りで新しくなる模索をすべきだ」という思いを抱いていた。その思いが、菅さんの総合芸術祭構想とちょうど重なったのだという。「オハラ☆ブレイクと風とロック芋煮会が、効率のために一緒になるんじゃなく、新しいことを生み出すために一緒になって見せる。これはすごく新しい、チャレンジの価値のあることだと思った」と箭内さん。「芸術は、自衛のためにハードルを高くしているような気がする。それが芸術へのアレルギーになっている。本当は食べ物も、人の笑顔も、景色も、なんでも芸術のはず。音楽の入り口はだいぶ広くなったけれど、美術の入り口はまだ狭くて高いまま。そこを変えたい」と続ける。

はじまりの3日間と11月まで続くプログラム

「September JAM」は9月21日(月・祝)〜11月3日(火・祝)の期間、猪苗代町の街なかを舞台に開催されるが、まずは最初の3日間に注目してほしい。

9月21日・22日「風とロック芋煮会 in September JAM」(猪苗代スキー場ミネロ)

これまで通りの居心地の良さ、ゆるやかな“村祭り”感を大切にしながら、豪華なラインナップのアーティストが集結する。長年続く「芋野球」が高齢化により難しくなったことから生まれた「大喜利」企画に、絵で答えを描くなどアート要素を掛け合わせる構想もある。東京藝術大学の学生による地元の張り子ワークショップなど、これまで培ってきた催しにも改めてアートとしての光が当てられる。

9月23日「オハラ☆ブレイク’26 秋-芋煮会-」(亀ヶ城公園)

例年の天神浜キャンプイン形式からテイストを変え、町の中心部にある亀ヶ城公園にステージを設置。会場から徒歩圏内でアート作品を体感できるほか、転換時間を活かして町をぶらぶら歩けるプログラム、映画上映、酒蔵見学なども予定している。

「猪苗代食堂」は開催期間中、猪苗代町内の「ななかまど食堂」に期間限定で出店。9月23日には、日本酒ライターの山内聖子さんとバーテンダーの古谷隆(Barレモン・ハート)さんを迎えた企画を実施する。参加アーティストには、奈良美智さんを筆頭とする現代美術作家に加え、手塚治虫さん、上條淳士さん、まつだひかりさんの3人の漫画家も名を連ね、音楽にまつわる作品の原画などを展示する。

2人の温度差も個性に?

イベントを毎年続けたいという菅さんに対し、箭内さんは「今年だけで精一杯」と語るなど、2人の間には温度差もある。「そこがいつもぶつかり合った方が面白い」と菅さんは笑う。
箭内さんは、自身が還暦を迎えるタイミングで手がけた「風とロック スーパーアリーナ」を最初で最後のイベントとして企画した経験から、「そのうち行こうと思われたくない」という強い思いを持つ。「継続を前提にした実行委員長と、それを出さない実行委員長が共同でいる。今年来る人は、これから一緒にこのイベントを作り上げる “チャレンジャー” なんです」

風とロック芋煮会には長年続けてきたからこそのカラーがあると箭内さんは言う。「風とロック芋煮会には長年続けてきたからこそのカラーがあると箭内さんは言う。「風とロック芋煮会だから出演する と言ってくれるアーティストがいる。一方で、オハラ☆ブレイクだからこそ実現するラインナップもある。その異なる個性がSeptember JAMという場で交わることで、これまでにはなかった新しい景色が生まれると思っています」

出演者を選ぶ基準について、菅さんは知名度や話題性を優先しているわけではないと強調する。「一番大切にしているのは、September JAMの考え方や、この場所で何を表現したいかという思いを共有できるかどうか。猪苗代という自然や地域の文化、人とのつながりを大切にしたイベントなので、アーティストにもただライブをするだけではなく、この土地だからこそできる表現や体験を一緒につくっていきたい」

箭内さんも同じ考えを共有する。「フェスは出演者の並びを中心に語られがちですが、September JAMは少し考え方が違います。それ以上に “この場所で何が生まれるか” を重視している。アーティスト同士の交流や地域の方々との出会いから新しい企画が生まれたり、普段のツアーでは見られないようなライブになったりすることもある。出演者一人ひとりがSeptember JAMという場の一部となり、来場者や地域と一緒にイベントをつくり上げていく。それがこのイベントならではのラインナップの魅力だと思います」

「一つの巨大フェス」ではなく、それぞれが主役のまま集まる場に

最後に、September JAMという名前に込めた思いを聞いた。「『JAM』という言葉には、人や音楽、アート、地域など、さまざまなものが交わり、新しい価値が生まれるイメージがあります」と菅さん。「September JAMも、一つのイベントではなく、猪苗代町全体を舞台に複数のフェスや企画が連携し、それぞれの個性を活かしながら一つの大きな文化をつくっていきたいという思いから名付けました」。前述の通り「JAM」にはJourney・Art・Musicという3つの要素も込められている。箭内さんは「何か一つのイベントが中心になるのではなく、それぞれのイベントや人が主体となって集まり、一つの大きなムーブメントをつくることを目指しています。いろいろな文化や人が交わることで、新しい表現や地域の魅力が生まれる。そんな “混ざり合う場” であり続けてほしい」と話す。

他のフェスとの違いについて、菅さんは「一番の特徴は、September JAM自体が一つのフェスではないということです。オハラ☆ブレイクや風とロック芋煮会など、それぞれのイベントが独立したまま集まって、一つの大きな取り組みになっている。来場者も一つの会場だけではなく、町を巡りながらそれぞれのイベントや地域の魅力に触れられる」と説明する。箭内さんも「僕らは “一つの大きなフェスを作ろう” と思っているわけではないんです。それぞれのイベントが主役でありながら、お互いにつながっていくことに意味がある」と重ねる。

今後の展望について、菅さんは「September JAMは、最初から完成されたイベントを目指しているわけではありません。毎年少しずつ新しい企画や仲間が加わりながら、時間をかけて育っていくイベントにしていきたい」と語り、箭内さんも「オハラ☆ブレイクにはオハラ☆ブレイクの、風とロック芋煮会には風とロック芋煮会の色があって、それぞれが変わらず存在しながら、新しい企画や人との出会いによって少しずつ広がっていく。固定された形にするのではなく、その時々の出会いやアイデアを大切にしながら、毎年新しい表情を見せられるイベントになっていけばいい」と締めくくった。

観客と演者、観客と出品者という境界を越え、「アートに出会うこと、アートの前に立つこと、アートと向き合うこともアートだ」と語る箭内さん。音楽という最も大きく開かれた入り口から、美術という奥行きのある世界へ――猪苗代の街全体を舞台にした挑戦は、9月21日に幕を開ける。

編集長:津田昌太朗 コメント

インタビューを終えて、二人から「説明しずらくて、よく分からないイベントだけどよろしく」というようなことを伝えられた。でも「分かりづらい」のではなくて、まだ何者であるか「分からない」イベントが「September JAM」なのだ。二人の会話の中でも語られていたけれど、”完成された/固定された形ではない”というのが本質的で、何が起こるのか分からない、そしてこれからどうなるのかが分からないのだ。分からないから面白い。何でもすぐ調べたら分かったような気になってしまう時代だからこそ、こういう”分からない”に足を運んでみたくなるのは、私だけではないはずだ。


インタビュー:信田正瑛
編集:津田昌太朗

『September JAM』
9月21日(月・祝)~11月3日(火・祝)
@福島・猪苗代町
公式サイト

『風とロック芋煮会 in September JAM』
9月21日(月・祝)・22日 (火・休)
@猪苗代スキー場 ミネロ
公式サイト

『ARTS in September JAM』
9月21日(月・祝)~11月3日(火・祝)
公式サイト

奈良美智「ライブドローイング展」
9月21日(月・祝)~11月3日(火・祝)
@はじまりの美術館
公式サイト

『オハラ☆ブレイク’26秋 -芋煮会-』
9月23日(水・祝)
@亀ヶ城公園
公式サイト

『湖畔の秋空と赤い花火 ARTS in September JAMオハラ☆ブレイク’26@天神浜オートキャンプ場』
10月17日(土)
@天神浜オートキャンプ場
公式サイト

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